久坂部羊 「廃用身」
タイトルにある「廃用身」とは病気などの後遺症で麻痺してしまい、リハビリなどを行っても回復の見込がない手足を指す専門用語なのだそうです。
怪我や脳梗塞などで手足が麻痺することがある、というのは理解していましたが、麻痺した手足が夏でも冷たく感じられたり、意思とは無関係に勝手に動き出して邪魔になったりすることがある、というのは本書を読んで初めて知りました。
これは小説ですが、老人医療に熱心に取り組む医師が、その「廃用身」を積極的に切断するという療法(「Aケア」と呼ばれています)を編み出し、実践した顛末が書かれています。
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まず前半。
第一印象は読みやすい。
よくお医者さんが新聞や雑誌に医療コラムやエッセイを寄稿されているのを目にしますが、まさにそれを読んでいるような感じ。
小説とは思えないリアリティがあります。
それもそのはずで、作者の久坂部氏は現役の医師なのだそうです。
老人医療や介護の現場で直面する(であろう)様々な問題が、誇張や演出なしに淡々とつづられ、やがて「Aケア」を実践するにいたった経緯やその効果などに話はおよびます。
さっきリアリティがある、と書きましたが、自分自身、読んでいくうちに「Aケア」の論理にも一理あるなと思わされてしまう、それに気づいたとき、まず第1弾でゾッとします。
「編集部注」の部分では、この部分は詳しくは書きませんが、マスコミによる「Aケア」への凄まじいバッシングの様子なんかも書いてあります。
現場を知らず、公正さにも注意を払わず、独善と迎合で突き進んでしまうマスコミのおぞましさに、またゾッとします。
とにかくおぞましいことの多い小説でしたが、単にグロテスクな話を見聞きして喜びたい人のために書かれたものでないことは確かです。
むしろ老人医療の抱える様々な問題についての衝撃的な告発の意味が大きいと感じました。
それから。
以前歯医者の受付をしていた自分の個人的感想として、
本当にいいドクターってどんなのだろう?って考えさせられました。
医師がベストを尽くしても必ずしも患者さんに受け入れられる保証はないし、
反対に患者さんが「信者」のようになってても、医師と患者さんのやり取りをそばで聞いてるスタッフのほうがシラけてしまってることもあるし、
評判のいい医者の中には、外面ばっかりいいヤブがいたり、
必要な処置さえも「金儲け」「点数稼ぎ」のように誤解されてるケースもあるだろうし。その反対も。
まあ、いろいろですよね。
同じようにやっていてもAさんは怒って帰ってしまい、Bさんは「信者」のようになりました、とか。症例によって変わることもあるし。
(ちょっとAケアと抜歯を比べてみたりもした。)
なにせ、現役のドクターが書いてるんだから、すごいです。
ちなみに、久坂部氏は一連の小説のほかにこんな本も書いてるようです。
さっき知りました。
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