読んだり食べたりした記録

旧ブログ「おやつ、読書・・・ときどきバレエのこと。」

群ようこ 「馬琴の嫁」

群ようこさんの時代小説「馬琴の嫁」。
タイトルどおり、江戸時代の戯作者、瀧澤馬琴の息子のところに嫁いできた「みち」という女性の一代記です。


馬琴の嫁 (講談社文庫)馬琴の嫁 (講談社文庫)
(2009/11/13)
群 ようこ

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よく結婚することを永久就職なんて言ったりしますが、封建時代の、嫁ぎ先の家に仕え夫に仕える結婚生活はまさに就職そのもの。
嫁ぎ先の家長である馬琴は上司。
そういう目で見ると、こういう上司っていそうだなあ・・・。
四角四面で万事体面を重んじ、厳格だし融通が利かないし吝嗇家。
馬琴以外の家族は体が弱いうえ、時々ヒステリーまで起こす始末。

さしづめ新入社員であるみちが、いかにして瀧澤家になくてはならない存在になっていったか。
そこが素晴らしいなあ、と思いました。

もともとが気の強い性格のようで、まあ、夫である宗伯には口ごたえをしてしょっちゅうケンカになっていますが、それでも不平不満は表に出さないように気をつけ、何事にも「はい」と返事をして、自身の働きぶりで信頼を得ていく姿が清清しくてカッコいいのです。
丈夫なだけが取り柄ということで、家事やら病人の看病やら子育てやら、もちろん力仕事も、朝から晩まで座る間もなく働きづめ、夜は夜で夜なべをして家族の縫い物をする、という生活は、憤りの中でも哀しみの中でも、休むことなく続けられます。
私も丈夫なだけが取り柄ですが、こんなに働き者ではないなー。。

後年、馬琴から絶大なる信頼を得たみちは、命じられて「八犬伝」の代筆をすることになるのですが、そこの場面が特に好きです。
当時の女性は読み書きができるといっても漢字などは知らないのが普通ですが、「八犬伝」の代筆となれば難しい漢字ばかりです。
ふがいなさに涙しながら「もう一度お願いします」というみちに、何度でも繰り返して話しては根気強く字を教えていった馬琴(そのころは目が見えなくなっていて、自分で字を書くことができなくなっていた)。
家族が寝静まった深夜、遅くまで読み返して字を覚えていくみちの姿に感動しましたし、頑張らねば!と勇気をもらいました。
(この本にたくさん元気をもらったので、苦手な雪かきも今日は苦にならず頑張れました。単純・・・。)

作者は馬琴がつけていた日記など、実際の文献をあたって本作を書き上げたようですが、気難しくてちょっと変わり者の馬琴の性格など、くすっと笑えるようなユーモアのある筆で描かれているのが、さすが群ようこさんの小説だなあー、と感心。
モデルは同じでも、別の人が書けば全く別の色をした作品になるのでしょうね。