宮尾登美子 「鬼龍院花子の生涯」
映画やドラマでも有名な「鬼龍院花子の生涯」を読みました。
鬼龍院花子の生涯 (中公文庫) (1998/01) 宮尾 登美子 商品詳細を見る |
暴力シーンばっかりの話だったら嫌だなあ。。と思っていたら、ぜんぜん違っていました。
冒頭からお得意の大正期の土佐の町の様子が活写されていて物語の世界に引き込まれます。
私の好きな「櫂」と同じく哀歓ただよう作品です。
侠客・鬼政こと鬼龍院政五郎とその子分、一つ屋根の下に住まわせている妻妾たちの暮らしについて、12歳のときに鬼政のところに養女にもらわれてきた松恵の視点から描かれた作品です。
1冊読んだら侠客業というなりわいについても結構わかってきました・・・
当時は政治経済から庶民の娯楽まで、いろんなところに関わりがあったのですね。
「鬼龍院花子」は鬼政の愛娘の名前で、鬼政に盲目的に可愛がられて育ったおかげで、何も出来ず何の常識もないわがままな女性になってしまったわけですが、この人の生涯はまさに理不尽な極道の世界に翻弄されたもので、自業自得とは思えないし、松恵も思っていないようでした。
作中、唯一といっていい近代的自我の持ち主が松恵であり、養女でありながら誰にも省みられず、時に女中のような役回りを演じながらも、覚めた目で客観的に一家の盛衰を眺めているのですが、彼女でさえも「家」という足かせを外せず、鬼政の娘であるために幸せを掴むこともできずにいます。
当時は今なんかよりずっと「家」が強かったのでしょうね。
何でだろう・・・と考え、人間が今よりもずっと脆く儚いものだったから、「家」というものに寄り添っていくより術がなかったのかなあ、と思いました。
人間の無力さを感じるのは、病気になっても安静に寝かせておく以外に方法もなく、あっさり人が死んでしまうのをどうにもできない、という場面をよく見かけるからなんですけど。
ところで、前にこの鬼政と同じ人物をモデルにした作品を読んだな、と途中で気がつきました。
「岩伍覚え書」に収録された「博徒あしらいについて」で、「鬼龍院...」読了後にこちらのほうも再読しました。