読んだり食べたりした記録

旧ブログ「おやつ、読書・・・ときどきバレエのこと。」

乃南アサ 「一番長い夜に」

芭子ちゃんと綾さんのシリーズの完結編。
この二人のシリーズを読んでて引き込まれるのは、季節感があること。
店先に並ぶ品物や晩御飯の献立、自転車を押して歩きながら吐く意気の白さや、窓辺に射す光などなど。
それらのおかげで、芭子と綾香の間にある親密さがそのまま読者が二人に感じる親近感になっていると思います。

ご存知の通りこのシリーズは「いつか陽のあたる場所で」の名でテレビドラマ化されました。
ドラマのほうは、オリジナルの登場人物がいたりストーリーも途中からオリジナルになものになったりしましたが。
小鳥のように怯えて暮らしていたけど、徐々に強さを身につけてゆく芭子役の上戸彩さん。
重い過去を背負いながら明るく生きようとする綾香役の飯島直子さん。彼女から漂ってくる母性が、綾香の過去をよりリアルで重いものにしていたと思います。
とにかく主演のふたりが素晴らしかったので、本作も二人の女優さんのイメージで読みました。

本書の後半で芭子は震災に巻き込まれるのですが、彼女が見聞きしたもの、彼女が感じたもののすべてがあまりにもリアルで、乃南先生は相当な量の取材を重ねられたんだなと思ったら、あとがきを読んでびっくり。当日の芭子の行動、見聞きしたことは、ほぼ全部、乃南先生が経験されたことだったとのこと。
その日にかぎって、ってこと、本当にあるんですね。
3.11の記録の一つとしても大切な1冊になりました。